万華堂みや子の明治大正レトロ日記

明治・大正ロマンやオールド上海などの昔のこと

元祖モダンガール・ささきふさの「おばあさん」を青空文庫で読む

大正時代の女流作家「ささきふさ」の小説が、青空文庫にアップされていましたので読みました。
「老い」について、嘆くでもなく、ひたすらに賞賛するわけでもなく、
ただただささきふさ自身が感じたことを人々の様子と共に丁寧に書いていて
感動してしまいました。

まずこの「ささきふさ」について
『断髪のモダンガール 42人の大正快女伝』森まゆみ(文芸春秋)
を読みますと
今で言う、セレブ・インテリという感じだったようですね。
早々に断髪・洋装にし、ハイカラなおしゃれでしかも頭が良い。
もともとインテリ一家に生まれ、夫は作家の佐佐木茂索
子供はいませんでしたが、それがなおさら、日常とは離れたハイカラでおしゃれで
都会的な暮らしをしていたのではないかと想像させます。


そんな「ささきふさ」の書いた「おばあさん」です。
主人公はどう考えてもささきふさ自身なのですが…エッセイと捉えてよいのか
がわからなかったので、一応主人公は主人公とします。

この短い小説の中には、93歳になったおばあさんが、それまで暮らした
長男のいる東京の本家から、主人公のいる伊東にやってくる様が、その人間模様
と共に精緻に描かれています。
おばあさんは長男の本家とは折り合いが悪く、窮屈な思いをしていたけれども
心の拠り所だった次男が一緒に暮らしていたためそこを離れませんでした。
しかし次男が急逝したことにより、ついにおばあさんは末娘の主人公のところに
来ることになります。
そんな経緯の話から、主人公が東京へおばあさんを迎えに行く様、おばあさん
との伊東への道中、そして伊東の主人公の家に着いてからのおばあさんとの
暮しのお話です。

その中では、主人公夫婦が飼っている老犬のお話も絡めながら
「老い」について見つめる描写が度々出てきます。

ささきふさはこの時はもう中年は過ぎていたでしょうから、自分と夫の老い
についても考えていたでしょう。

途中、編集者の夫が自宅を訪れた会社の人間にこう言う場面があります。

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「まだまる四十年も生きなくちやならないんだよ、君。」と彼は訪ねてきた社の人に云つた。「君はあと五十年か、ハハ。それも大人になつてからの五十年だぜ。」

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「大人になってからの五十年」という言葉に重いものを感じました。
若い頃の夢見がちな時の五十年ではない。
自分の「老い」に向き合いながらの五十年。

そんな感覚が、この大正から昭和をハイカラに生きたささきふさにも
あったのだろうと感じました。